開祖、778年。1200年余の歴史を持ち、世界中から多くの⼈々が訪れる世界⽂化遺産の清⽔寺。結婚式を執り⾏うようになったのは、2000年からと、意外にも最近のこと。
どこか固いイメージもある仏教の結婚式ですが、その裏側には、ご住職の思いやりに満ちた眼差しがありました。開祖から1200 年経った今、結婚式を始められた理由。そして、2020年に⽣まれた新しい結婚式の形について、清⽔寺の⼤⻄英⽞(おおにし えいげん)さんに伺いました。
清水寺 大西英玄さん
7名の僧の⽴ち合いのもと、観⾳様の前で想いを誓う
―清⽔寺の結婚式についてお聞かせください。
清⽔寺は創建以来、1200年間、⼤衆庶⺠信仰の⼊⼝として、⽼若男⼥や信仰の有無を問わず、等しく皆さまをお迎えしてきた歴史がございます。特定の檀家さまを持つお寺ではありませんので、お葬式や婚礼のような⾏事は⾏っておりませんでした。
転機を迎えたのは、平成12年のことです。当⼭のご本尊である観⾳さまを公開する「ご開帳」という⾏事が⾏われました。33年に⼀度の⼤変⼤きな⾏事です。その際に、あるご家族様から「観⾳様の前で夫婦の契りを結びたい」という強いお願いをお預かりしました。「誠の想いを持つおふたりを、私たちはどのようにお迎えすることができるだろうか?」と考えた結果、初めて清⽔寺で挙式を執り⾏いました。以来、年間4、5組ほどでしょうか。ご縁のございました新郎新婦さまの挙式を⾏なっております。
挙式が⾏われる場所は、当⼭の本尊である観⾳様の真正⾯となる本堂の内々陣です。「観⾳」とは⽂字どおり、「観」と「⾳」がぴったりと寄り添い、共鳴した状態。挙式を迎えられるおふたりにとりましては、⾃⾝が「観」で、⽬の前のパートナーが「⾳」といえるでしょう。挙式では、住職が「戒師(かいし)」という取り仕切り役を勤め、清⽔寺にいる7名の僧が全員参列いたします。
―挙式を⾏う時にはどのようなお気持ちになられますか?
やはり嬉しいですね。それと同時に、⾝の引き締まる思いもします。「⽇々の暮らしの中で、⽀え合い、お互いに助け合います」と誓いを⽴てるおふたりの姿を⾒ていると、世の中に⽣まれた⼩さな希望の光を拝⾒している。そんな想いがいたします。「末永くお幸せに」という定型⽂がございますが、本当に、⼼から思います。ぜひお幸せに、と。
―ここで結ばれた⽅々すべてに、等しく⼤切な想いをお持ちなのですね。
挙式に参列させていただくと、節⽬を迎えられるおふたりの想いの「純度」を感じます。ご家族や、ご縁のある⽅々も同じです。ですから、お迎えする側も、おふたりのエネルギーを受け⽌めるだけの純度を保たなくてはなりません。おふたりの想いに遜⾊のないように、と思っています。
清⽔寺では、挙式をされたおふたりに「永久参拝許可書」をお渡ししています。おふたりが困難に直⾯された時、お互いへの思いやりの⼼が⾒つかりにくくなった時、いつでもここに来て、当時のお気持ちを思い出していただきたい。式を挙げられた時はもちろん、10年後、20年後、再び何かのご縁でいらっしゃった時に「式をしてよかったな」と思っていただけたら、これに勝る喜びはありません。
20年間を経て⽣まれた「結婚奉告法要」という新しい形
―清⽔寺では、2020年から「結婚奉告法要」という、結婚式よりも少ない⼈数や短い時間でできる挙式の形を提供していらっしゃるそうですね。
新型コロナウイルスの蔓延により、思い描いていた挙式やご披露宴を諦めざるを得なくなった⽅がたくさんいらっしゃいます。機が熟しているにも関わらず、想いを確かめ合う場が失われてしまう状況下で、「お寺としてできることは何だろうか」と考えました。そこで始めたのが、「結婚奉告法要」です。
―結婚式を挙げることには、どのような意味があるとお考えになりますか?
選択の⾃由を尊重すべきだと思いますし、決断に⾄るそれぞれの背景があると思いますので、⼀概には申せません。ただ、私が思うのは、「『ひと⼿間』をかける行為には、必ず⼈の想いが存在している」ということです。
今の世の中は、情報で溢れています。更新されていく情報の中で最適な選択肢を選ぶため、「次から次へ、次から次へ」と急ぐお⼼持ちになってしまうことが多いように思います。枠組みから出るのをためらったり、定型⽂で場をやり過ごしたり。⽇々の⼈間関係までもが、情報の羅列に代わってしまうこともあるでしょう。そのような中で、⼤切な⽅に想いを伝えるのは、簡単なようで難しいことです。特に、「いつもありがとう」「⼤事に思っています」「愛しています」などの⾔葉はなおさら。
「ひと手間」をかけても、本当に⼤切な⽅々に、改めてしっかりと想いを伝える。挙式やご披露宴は、そのような場なのではないでしょうか。⼈が⽣きていくために⼤切な「想いを伝える」ということ。それを、しっかりと丁寧に、勇気を振り絞ってしていただけますように。私たちがお⼿伝いできたら、と思っています。