和の結婚式の正統派といえば、やはり、白無垢の着物に日本髪。その姿は神秘的で美しく、日本の美意識を体現しているといえるでしょう。
その際に欠かせないのが、日本髪の「かつら」。
今回は、京都の芸妓さんたちから絶大な支持を受けているかつら作りのお店「京かつら今西」さんにお話を聞きました。
京かつら今西さんは、すべて手作りで仕上げるかつら作りにこだわり、かつらの製造・販売・貸出をされています。
芸妓さんがお座敷で使うかつらはもちろん、和装の花嫁さんが使うかつら作りに力を入れていらっしゃるそう。
かつら作りの工程や、似合うかつらを選ぶポイントなど…普段は知ることができない、「かつら」にまつわるお話を、
京かつら今西 二代目の今西康文(いまにし やすのり)さんに伺いました。

京かつら今西 今西康文さん
近くで見ても自然で美しいかつらを目指して
― 京かつら今西さんのお仕事について、教えてください。
京かつら今西は、先代である父が立ち上げた日本髪のかつらの店です。芸妓さんと和装の花嫁さん、この2種類のかつらを主に扱っています。

京かつら今西 初代(現会長)の今西康夫(いまにし やすお)さん
一般的に、舞台で使われるかつらは、遠くからでも見えるよう、大きめに、華やかに作られています。
一方、私たちが扱っている芸妓さんのかつらは、お座敷のお客様に近くで見られることが前提。近くから見られても不自然でなく、「綺麗だな」と思ってもらえる仕上がりが求められます。
そしてそれは、花嫁さんも同じ。近くで見られて「自然だな」「綺麗だな」と思ってもらえることが大切です。
なるほど。芸妓さんと花嫁さん、2つのかつらはまったく違うようで、実は共通点があるのですね。
京都という土地は、芸妓さんはもちろん、神社仏閣で和の結婚式を挙げられる方も、他の地域に比べたら多いと思います。着物に洋髪を合わせるのももちろん良いとは思いますが、やはり日本の伝統的な「日本髪」というスタイルを大事にしてもらえたらいいな、と思っています。
素材と道具にこだわったかつら作り
―かつらはどのような工程で作られているのでしょうか?
日本髪のかつらの土台となるのは、台金(だいがね)という金属の薄い板です。初めは、まっすぐな1枚の金属板。これを細かく叩いて丸みをつけ、頭の形に合わせていきます。
台金が頭の形になったら、羽二重(はぶたえ)やネットを張りつけ、土台の金属板を抜きます。こうして、かつらの土台ができ上がります。
―かつらの丸い形が平たい金属板から作られているとは、驚きです。
土台ができたら、ネットの網目ひとつひとつに、髪の毛を植えつけていきます。私たちが使っている髪の毛は、100パーセント人毛。
ネットの網目を通って2つ折りになり、さらに結い上げるだけの丈がいるので、素材となる毛は1メートル近くの長さが必要となります。
繋ぎ合わせて1本にしている訳ではないのですね。となると、使えるのは、
腰のあたりまで伸ばして切った髪の毛だけ、ということになります。
そうなんです。そこまで長い人毛は非常に貴重で、なかなか手に入りません。エクステンションや洋髪のウィッグの素材にも使われますから、
日本髪のかつらまで回ってこない、という話も聞きます。
幸い、私たちの場合は、先代である父が長年にわたって仕入れ続けてきた在庫があります。
しばらくは作りつづけていける分が確保できているので、品質の良い素材を使ったかつら作りができるんです。
―髪の毛を植え付ける作業は、すべて手作業とのこと。そこにもこだわりが?
はい。自然な仕上がりに見せるためには、髪の毛の生え際がいちばん大切。額の1、2センチの部分が勝負どころです。

生え際が自然に見えるよう、バランスを見て髪を植え付け
植え付けは大変細かく、根気がいる作業。ひとつのかつらを作るのに、職人ひとりでやったら丸1か月ほどかかります。
実際は何人かの流れ作業でやっているので、もう少し早くできますが、それでも大変な作業であることに変わりはありません。
―髪の毛が植えられた後の工程は?
植え付けが終わった後は、何種類かの櫛(くし)やコテを使って、髪の毛を結い上げていきます。
この時、鬢付け油(びんつけあぶら)と呼ばれる整髪料をつけて、まとまりとツヤを出します。

結い上げに使われる道具にもこだわりが
日本髪の場合、花嫁さんの髪型は「文金高島田(ぶんきんたかしまだ)」と呼ばれる形が定番です。
よっぽど特殊な場合でない限りは、文金高島田のかつらを使いますので、結い上げはこの形に仕上げます。

「文金高島田」の形で結い上げられたかつら
たくさんの在庫のおかつらから、花嫁さんひとりひとりに合ったかつらを選び出す
―京かつら今西さんでは、花嫁さんのかつらを選ぶ「かつら合わせ」を行っているそうですね。
花嫁さんには、お店にお越しいただき、1時間ほどかけて「かつら合わせ」を行います。
私たちが持っている数多くのかつらの中から、その方に似合うひとつのかつらを選ぶためです。

花嫁さんに似合うかつらを選ぶための「かつら合わせ」
同じ作りのものもあるので、すべてが違うという訳ではないですが、サイズや髷(まげ)の高さ、大きさなど、それぞれに微妙な違いがあります。
自分たちで手作りしているので、わずかな違いが出せるんです。
これだけの数のかつらがありますから、ほぼすべての花嫁さんに、似合うかつらが見つかります。
―でも、それだけ種類があると、似合うものを選ぶのもひと苦労なのでは?
どのサイズがいいか、というのは、見た感じでおおよその見当がつきます。かつらをかぶる準備で頭を触らせていただくと、
「この方に似合いそうなのはこれかな」と、候補のかつらが思い浮かぶんです。

かつらの準備をしながら似合うかつらをイメージ
そうして選んだかつらをいくつか実際にかぶっていただき、花嫁さんのご意見も聞きながら、ぴったりのひとつを選んでいきます。
―長年のご経験があるからこそ、どんなかつらが似合うのか、ピンとくるのですね。
似合うかどうかは、どこにポイントがあるのでしょうか?
サイズがぴったりで、頭にフィットしていることがまずひとつ。あとは、結った部分のふくらみの大きさもありますね。
これは、お顔とのバランスを見て決めます。髷の高さによっても、正面からの見え方が違いますしね。お顔立ちや、輪郭など、その方の雰囲気に合わせて、
選ばせていただくようにしています。
かつら合わせで選んでいただいたかつらは、結婚式の本番に向けて、結い直しをします。かつら合わせのときの印象も踏まえながら、さらに花嫁さんに似合う形に、整え直すんです。1回1回新しく結うので、乱れることなく、最高に美しい状態で本番を迎えていただけます。

職人技で髪を結い上げる
痛くない、重くない。花嫁さんが心地よく過ごせるかつらを作りたい
―今西さんのかつらのこだわりは何ですか?
花嫁さんに似合っていて、見た目が美しいのはもちろんひとつ。そして、同じくらい大切にしているのが、付け心地の良さです。
芸妓さんはかつらをかぶり慣れていますが、花嫁さんは初めての方がほとんどですよね。
ですから、結婚式当日、花嫁さんが長時間かぶっていても“痛くない”“つらくない”かつらを作りたいんです。
― どのような工夫をされているのでしょうか。
まず、重さをギリギリまで減らすこと。他所で作っているかつらは古いものだと1kg近くあって、フルフェイスのヘルメットと同じくらいの重さです。
それでは重すぎますよね。私たちのかつらは、だいたい650gほどです。
かつらの土台には軽い金属を使っています。髪の毛もやたらと増やすと重くなりますから、必要な量を見極めて、植え付けるようにしています。
サイズを合わせることも大切です。かつらって、頭にちゃんと合うものを乗せれば、不思議と重く感じないものなんです。
合ってないものを無理やり乗せて止めようとするから、しんどくなってしまう。
―合うかつらを選ぶことは、着け心地の面でも重要なのですね。
他にも、土台に使っているネットにはすごく柔らかいものを使って、花嫁さんの顔に刺さらないようにしています。
結い上げに使う鬢付け油も、いい匂いのものを選んでいて。メーカーによってはロウの嫌な匂いがしたりしますからね。
いろいろ気をつけていても、やっぱり花嫁さんがどう感じるかが大切です。かつら合わせの時に、痛くないですか、大丈夫ですか、と、よく確認するようにしています。
花嫁さんの晴れ姿を見られることが、仕事のやりがいにつながる
― お仕事をしていて、やりがいを感じるのはどんな時ですか?
最近は、インスタグラムなどを通して、結婚式を終えた方からメッセージをいただくことが増えました。当日のお写真を送っていただくこともあり、本当に嬉しいです。
というのも、私たちの仕事は、結婚式に向けてかつらをご用意するところまでですから。当日花嫁さんにかつらをつけるのは、ヘアメイクさんのお仕事。私たちが当日のお姿を拝見できる機会は、基本的にないのです。
ですから余計、花嫁さんや信頼できるヘアメイクさんより当日の綺麗なお姿の写真を送ってくださると、「ああ、綺麗だな、よかったな」って。ほっとして、胸がいっぱいになります。送っていただいたメッセージはどれも大切に読ませていただき、日々の力になっています。


―最後に、かつら作りに対する想いをお聞かせください。
日本髪は馴染みが薄く、ほとんどの方が、自分に似合うと思っておられない印象があります。本来は日本の伝統的な髪型なのに、今は、コントや仮装で使われるような“コスプレ”みたいなイメージのほうが強いのかもしれないです。かつら合わせに家族やお友達がついてこられて、「今日は、かつら姿を笑いに来ました」っておっしゃることもあります。
でもね、かつら合わせで実際にかぶっていただくと、皆さんの態度が変わるんです。「こんなに似合うんだ」って。花嫁さんにぴったりのものを選べば、違和感なく、ご本人のお顔に自然に馴染みますから。
最初は笑っていたお友達が、最後には「かんざしはこっちがいいんじゃない?」って、ご本人より真剣に選ばれていたこともありました。かつらへのマイナスイメージを覆せた瞬間は、「やったな」と思いますね。

「似合っている」と思ってもらえるよう、こだわりのかつらを作り、ぴったりのひとつを選ぶ。
これが、私たちの役割であり、これからもずっと続けていきたいことです。
※動画の中の花嫁さまのかつらが「京かつら今西」さんのかつらです